光が見えながら、自らを虐げる人

国東芸術文化祭が、11月30日を持って閉幕しました。
期間中、国東半島各地でイベントが行われ、一日じゃ回り切れない。
前回書いた、ラバーダックとPICFA以外にも
見たいものがあったので、
日を改め、国東の岩戸寺の方にも、行ってみたのでした。
見たかったのは、
木のオルゴールを作られている夢音(ゆのん)さんと、中野マーク周作さんの作品。
素晴らしかったのですが、残念ながら写真がないので、今回は別のことを。
その時に、偶然お会いした女性のことをお話したいと思います。
県道から、車一台通れるほどの細い道を、
岩戸寺に向かって上ると、
思いがけず広い駐車場に出ます。
車のドアをバタンと閉め、
さて、どこが入り口なのかと、林の方を眺める。
誰かが、落ち葉焚きでもしているのか、
煙の匂いがします。
煙たいのは苦手なのですが、仕方ない。
その中を通って、境内まで続く道を登ります。
ふと見ると、誰かが写真を撮っている。
住職さんと思しき、スウェット姿の男性と、
何やら笑って言葉を交わしている。
そのそばを通り過ぎようとしたとき、気が付いた。
その女性が、夢中で撮っていたのは、
林の間を照らす木漏れ日だったのてす。

スギ林を光が貫く。
煙が風に揺れる度、姿を変える光の線。
「わぁぁ!キレイですねぇ!」と思わず声が出る。
「そうなんですよ、面白くて!もう、かれこれ20分くらいこうしてる」と笑う。
「私もご一緒していいですか?」と、
スマホを取り出し、シャッターを切ります。

光の線が細くなったり、太くなったり。
「よく気づかれましたね~!むちゃくちゃキレイですね~!」
「じ~っと待ってると、次々形が変わるのが、面白くてね~。
あ、こっちからも、なかなかイイですよ」と教えてくれる。
二人で、しばらく写真を撮っていると、その下を二人連れが通る。
その人たちは、特に興味もなさそう。
オバちゃん(私)とお婆ちゃん二人で、キャーキャー言って写真を撮っていて、
その下を「何やってんの?」って感じで、通られたわけです。
すると、お婆ちゃんのテンションが、一気にシュンとなりました。
「あぁ、ほんと、私アホやけんね。いっつも。
こんなんに夢中になって。ほんと、アホやけん。」と言う。
「・・・え?え?いや、私も一緒にキャーキャー言って撮ってたんで。
それなら、アホと言われるのも、ご一緒ますよ?」
「いや、あなたは今来たとこやけん。私なんか、20分も。」
それから、なんだか、すごくしょんぼりされていたのです。
いやいや、
そんなに「アホや」と自分で言わなきゃならんほど、いったい何の非があるんだろう。
こんなキレイなものに気づく感性があって、
それを20分も夢中で追いかける気持ちの若さがあって、
なぜそれを「アホや」と自虐しないといけないのか。
そう言わねばならぬほど、この人は何を言われてきたんだろうか。
さんざん「何でお前はそうなのか」と言われて育った身からすれば、そんなことを勘ぐってしまう。
「それでも、きっと、そのカメラの中には、
あなたが撮った、この世界の素晴らしいところが、
たくさん写っているんじゃないですか?」
そう思ったものの、気の利いた言葉が、スッと出てこない。
そもそも、年配の女性に、
「アナタ」と言うのもなんだし、
「オクサン」じゃ、みのもんたみたいだし。
とかなんとか、そこから迷って、言葉が続かない。
なんとな〜く重たい気持ちになって、
なんとな〜く挨拶をして、
そのまま別れて、境内に向かったのでした。

自虐という言葉を調べると、
「自分を責めさいなむこと」とありました。
「さいなむ」とは「苛む」と書き、
「良心に苛まれる」とかよく聞きます。
苛むとは、
①苦しめ、悩ます。いじめる
②責め叱る。
つまり「自虐」は、
「自分で自分を必要以上にいじめ、責め立てること」でしょうか。
自虐する心理とは、どこか
「他人に言われんでも、自分で分かっとるんよ」という感じがします。
傷つけられる前に、自分で傷をつけ、
それを見せることで、
「追い打ちは必要ないでしょ?自覚はあるんだから」というような。
そこには、「これ以上の傷はつけられたくない。」
そんな気持ちがあるように思うのです。
私は、死んだことがないので、死後の世界のことは分かりません。

カミサマやエンマさまみたいな存在がいるとして、
もし、「お前、生きている時どうだったの?」と聞かれたら、
このお婆ちゃん、アホだと言われるだろうか。
私なら、いかに立派な功績を残したかなんて自慢話より、
「こんなキレイなものを見た」とか、
「すごい面白い経験した」とか、
「こんな大好きなものがあった」とか、
そういう話を聞きたい。
くだらなすぎて、大笑いするような話でもいい。
この人が一生を通じて、
何を見て、何を思い、どうしたか。
必死になってやってきたこともよし、
ただただ、感動して、心からその喜びに浸るもよし、
面白おかしく、ワクワクして心躍るもよし。
あのお婆ちゃんのカメラには、
きっとお婆ちゃんにとっての
宝物のような風景が写っていたはずです。
だから、うまく言えなかったけど、お婆ちゃん。
少なくとも私は、お婆ちゃんのこと、アホとか思えんよ。
一緒に写真撮れて、本当におもしろかったんやけん。
そう、もう伝えようもない言葉を飲み込むしかないのでした。
ちなみに、年配の女性になんと呼べば良かったんだろうとGeminiに訊いてみたら、
「日本語はニュアンスが難しいので、
あえて呼びかけないのがいいんじゃないか」という答えでした。
う~ん。AIにも、回答を逃げられた。
あのお婆ちゃん然り、私然り、どこかの誰が然り。
もう、これ以上、自分で自分を、いじめる必要なんてない。
そんなことで、人をアホ呼ばわりする誰かの、
つまらん物差しに合わせて、落ち込むなんて!
その方がよっぽどアホらしい!
ちゃんと、美しいものを見て、美しいと感じている。
それだけで、きっとあなたはスンバらしいのです!

